来島海峡に臨む今治市近見地区の伊賀山丘陵には、全長約82mの愛媛県最大の前方後円墳〝相の谷1号墳〟があります。しかし、未指定の文化財であることや10年近く前までは藪になって立ち入りづらいこともあって、市民から注目を浴びることはありませんでした。近年は、地元のまちづくりグループ「しまなみ海道周辺を守り育てる会」(村越定信会長)の清掃活動などによって、前方後円墳の形状を確認できるまでになりました。
講演する冨田尚夫氏 |
講師の冨田尚夫氏は、古墳時代の研究を専門とする愛媛県歴史文化博物館の専門学芸員です。冨田氏は、相の谷1号墳で昭和40・41(1965・66)年の発掘調査で見つかった出土遺物の整理・分析を平成15(2003)年度以降行い、その成果を研究紀要『今治市相の谷1号墳出遺物』として刊行した中心人物でもあります。同様の演題で、昨年10月末には同館のテーマ展「今治平野の古墳文化」に合わせて歴史講座の講師を務められました。
会場には、しまなみ海道周辺を守り育てる会の会員を中心に52名の受講者があり、中には熱心な考古ファンの方も見受けられました。今治市では1990年代にバイパスの建設、2000年代は今治市新都市開発事業、2010年代は今治道路建設事業があり、ここ30年近い間に高橋仏師古墳など貴重な出土遺物・遺構を示す古墳が多く見つかっております。しかし、それらの多くは開発にともなって記録保存を行った後に失われているのが現状です。今回は、それらから分かった成果をもとに今治平野の古墳文化を検証し、相の谷1号墳の価値と魅力にせまりました。
講座の様子 |
近年、相の谷1号墳の墳丘の姿がよみがえったことで、しまなみ海道周辺を守り育てる会の招きでくらしき作陽大学の澤田秀美氏が踏査を行っています。その報告によれば、同墳は奈良の宝来山古墳(伝、垂仁天皇陵)の3分の1サイズと推定できるとのことでした。当時、築造のための設計図面があったと仮定すれば、相の谷1号墳のプロトタイプが近畿の大王クラスの古墳になるという驚きの見解でした。宝来山古墳は三段築成の巨大な前方後円墳となります。澤田氏によれば、相の谷1号墳も海側だけが三段築成の可能性があり、海を意識した古墳の特徴をよく表わしているとのことでした。また、冨田氏によれば、出土した埴輪のつくりからは東四国地方の特徴が見られ、海を介して他地域との交流が感じとれるとのことでした。
相の谷1号墳を視察する近見小学校6年生 |
ドローン撮影による相の谷1号墳(動画の一場面) |