2025年10月6日月曜日

越智郡上島町をフィールドワーク(9月20日)

 9月20日(土曜)午後、連携協定のパートナーである智内兄助一般財団法人のメンバーとともに、越智郡上島町をフィールドワークしました。本学からは来年度新設の地域未来創生コースを担当する大成経凡先生が同行し、岩城島の「岩城郷土館」「岩城八幡神社」と佐島の古民家ゲストハウス「汐見の家」を視察しました。アクセスは、しまなみ海道を経由して因島で降り、同島の長崎港から生名島の立石港へ上陸。あとは、ゆめしま海道でつながった上島町の島々を車で移動というものでした。上島町は広島県との県境にあって、今治市と隣接しながらも遠くに感じます。弓削島には愛媛県立弓削高校もあって、大成先生自身もいつか同校の地域探究の授業にかかわりたいそうです。

 岩城郷土館は〝旧島本陣三浦邸〟とも称され、町指定文化財にもなっている歴史的建造物です。棟札によると、幕末の慶応元(1865)年9月落成のようで、当時岩城島の豪商であった三浦家(東三原屋)の屋敷内にありました。本陣の意味は、貴人の宿泊するところで、戦場にたとえるならば大将が陣取る場所をいいます。藩政時代、岩城島は生名島とともに松山藩領に属し、船で参勤交代を行う際は自領の最北端に位置しました。参勤交代や領内巡視で藩主の立ち寄る機会があったようで、その場合に備えて藩は岩城島に「御茶屋」という藩主の休息・宿泊する施設を設けていました。本陣については、他の大名や幕府役人が立ち寄る際に使用するのが通例ですが、実際にこの三浦邸の本陣がどのように使われたのかは分かっていません。幕末動乱期につくられたということは、やはり幕府役人や戦時への備えのように感じます。松山藩は、航路沿いでは津和地島・三津浜・興居島にも御茶屋を設けていましたが、本陣があったのは岩城島だけでした(興居島は18世紀後半に廃止)。今治藩は、弓削島に御茶屋を設けていました。


岩城八幡神社からの眺め

 現在、岩城郷土館は島本陣の設えを学ぶことができる貴重な海事遺産といってもいいでしょう。昭和57(1982)年4月に岩城村の郷土資料館となる前は、建物が老朽化して存続が危ぶまれていたとか。三浦家が村へ寄贈することで、朽ちた部分を修復して今日にいたっております。大成先生は22年ぶりの訪問になったようですが、前回の印象は、建物の設えよりも、ここを歌人の若山牧水や吉井勇が訪ねたエピソードに重きが置かれていたように感じたそうです。それが今回は、建物の設えや使用されている建材などに心が躍りました。それもそのはず、近年、中庭・坪庭の手入れを行う住民有志が現れ、インバウンド向けに羽織を用意するなど、滞留時間が長くなる工夫が見られたのです。庭がよみがえると屋敷は本来の輝きを取り戻し、癒される空間へと変わります。今回は、再生に尽力する「三浦邸ふれんず」代表の山本こころさんから、手作りおはぎのもてなしを客間(藩主の部屋)で受け、同館の魅力を再発見しました。


旧島本陣で心温まるおもてなし

旧島本陣の客間(藩主の間)

手入れが行き届いた中庭


以下は町に対するアドバイスとなりますが、もう少し、建物の設えに重きをおいたパンフレットを作成すべきだと感じました。どこにも建物の竣工年が記されていません。また、「御茶屋」と「本陣」の違いを理解し、比較対象となる類似の施設を把握する必要性があります。三浦家は、岩城村で天保10(1839)年に没落した庄屋・白石家に代わって同12年から庄屋となった豪商で、近くの岩城八幡神社の寄進石造物を見ると、刻まれた銘からもそのことがうかがえます。この白石家没落の理由が判然とせず、大成先生は同島の塩田開発にからみ、投資に見合う成果が得られず、経営不振に陥った可能性を想定しているようです。この三浦家は、金融・廻船・塩田経営で財をなしたようですが、廻船の活動については石見国外之浦(現、島根県浜田市)・清水家の「諸国御客船帳」に享和3(1803)年6月から天保5(1834)年5月まで8回の寄港を確認でき、縞木綿や食塩を積み荷として廻漕していたようです。藩の御茶屋が設けられ、港湾整備が進むにしたがって、町場の機能も備えて問屋が立ち並びます。岩城島は藩政時代から1島1村の行政区でしたが、綿花栽培と塩田経営、海を生業とする出稼ぎなどで賑わったようで、その富の集積を旧島本陣や神社の寄進石造物などからうかがい知ることができます。もっと他にも連関させて見るべきポイントがありますが、その課題は地域未来創生コースの活動にとっておきたいと思います。

 その日の夜は、佐島の「汐見の家」で食材を持ち寄り、食卓にはイギス豆腐や鯛のお刺身、アコウ(キジハタ)の煮つけなどが並びました。智内画伯も懐かしい海の幸に大喜びでした。そうして、オーナー・管理人ら島民との親睦を図りましたが、土地の地域課題と真摯に向き合い、楽しみながら暮らしている姿が印象的でした。同所は宿泊もできますので、いつか学生たちを引率して訪ねたいと思います。


ゲストハウス「汐見の家」


「汐見の家」の団らん



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