2023年12月1日金曜日

大学公開講座 11/27 左手のピアニスト・智内威雄氏をお迎えして

 11月27日(月)、左手のピアニストの智内威雄(ちないたけお)氏を招き、大学公開講座を開催しました(46名受講)。智内さんを招いた公開講座は、昨年9月につづき2度目となります。今回は、テーマを「街を子どもたちの音で彩る」と題し、本学幼児教育学科の学生たち32名が授業の一環で受講することになりました。

 実はこの前日、智内さんは国際的な洋画家として高名な父の智内兄助氏と、松山市の愛媛県民文化会館でトークショーとコンサートを行ったばかりでした。兄助氏は今治市波方町出身で、現在は埼玉県蕨市にアトリエを構えて活動いたしております(個展はパリを中心に開催)。威雄氏は蕨市出身で、現在は大阪府箕面市に居を構え、東京音楽大学非常勤講師を勤める一方で、片手によるピアノ演奏の普及活動やコンサートなど幅広く活躍中です。

 今年の講座も、〝左手のピアノ〟が誕生した歴史背景を説明するところから始まりました。今から100年近く前の第一次世界大戦(1914~18)が大きな契機となります。出征で右腕を負傷したピアニスト・ウィトゲンシュタインが左手演奏に希望を見いだし、作曲家に依頼して多くの作品が誕生したのです。それ以来、第二次世界大戦の頃までワンハンドのピアノ界は隆盛期を迎えます。しかし、それはあくまでプロの演奏家の再起の道としての芸術でありました。

 一方、戦争とは異なる形で、将来の道を閉ざされるピアニストもいました。智内さんの場合は、局所性ジストニアという難病をドイツ留学中に発症し、右手の演奏ができなくなったのです。プロのピアニストを目指すさなかにあって、これは挫折ともいえる出来事でした。それでも本人はいたって前向きで、指揮者・作曲家・声楽家などに挑戦しようとし、音楽とのかかわりは捨てようとはしませんでした。その時に、指導教官からウィトゲンシュタインに始まる〝左手のピアノ〟の存在を知り、トレーニングに励んでハノーファー音楽大学を首席で卒業するにいたりました。

 智内さんが日頃心がけていることは、音楽を通じて人々の心が豊かになるため、自分には何ができるのかということです。左手のピアニストとして活動する智内さんのもとには、しだいに「自分たちも左手の楽曲を演奏してみたい」という声が届くようになり、片手によるピアノ演奏の可能性を探るようになります。そもそも左手のピアノの楽曲は、プロの演奏家が弾くことを想定していて、一般向けの楽譜が存在しなかったのです。誰も弾ける譜面が求められました。そこで、作曲家の有志に呼びかけ、こどもや高齢者、障碍者でも挑戦できるよう編曲づくりを始めます。そして、2018年に第1回左手のピアノ国際コンクールを開催して話題となりました。将来的にはこの運動を世界中に広め、戦争が契機で花開いた片手によるピアノ演奏を〝世界無形文化遺産〟にまで高めたいと考えています。実際に、智内さんの演奏を聴いていると、両手の演奏に対して迫力や芸術性に欠けるという点は一切感じられず、”左手のピアノ”がジャンルとして確立されたものと分かります。

 最近、智内さんは箕面市などと連携し、こどもを対象にした曲づくりのワークショップも展開し、音楽の裾野を広げる活動にも尽力されています。演奏の機会はたくさんあっても、曲作りの機会はなく、現在はパソコンのアプリを使えば誰にでも簡単に曲はできてしまうのです。まちのテーマ曲をこどもたちが作り、それが街の各所で流れる…。そんな音楽で彩られた街があってもいいのではと、新たな挑戦にも取り組んでいるとのことでした。幼児教育学科の学生たちの多くは、卒業後に保育施設の現場へ出て参りますが、音楽の可能性を最大限に引き出す智内さんの活動を知って、自身の取り組みにも生かして欲しいと願います。講座終了後、智内さんを囲んで記念撮影を行いました。


トークする智内さん

公開講座の様子


演奏する智内さん


智内さんを囲んで記念撮影



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